いきもの深夜便
入荷リストが届くのが、楽しみだった。発注は、自宅の水槽に魚を買う感覚
ショップの話

入荷リストが届くのが、楽しみだった。発注は、自宅の水槽に魚を買う感覚

書いた人: 管理人(熱帯魚歴30年・元ショップ店員・元卸売業者)

FAXが届くと、私は電話をかけた

店は総合ペットショップで、売り場がとにかく広く、電話はレジ横に一台だけありました。FAXが届くのは裏の事務所で、時間帯はまちまちでしたが夕方が多く、ちょうど西日が差し込むころに届くことがよくありました。

取引先の業者がいくつもあったので、どこかの業者から、ほぼ毎日入荷リストが届きます。紙を持って売り場に出ると、私はまず原価と魚の名前を見ました。

リストの並びは、どこの業者もほとんど同じでした。いちばん上がカラシンで、そこからダニオやローチの仲間、シクリッド、ナマズと下っていき、紙の後半には大型魚が顔を出します。下へ行くほど魚は大きくなり、値段も一緒に上がっていく。当たり前の話なのに、紙の上で見ると妙におかしくて、ひとりで笑ってしまうこともありました。

その先には、エビや貝や汽水の魚といった「その他」が並び、最後が水草とその他です。海水の魚を扱う業者は海水だけ別の紙になっていて、私もそれには目を通します。ただ、店では海水に別の担当がいたので、私が海水の魚に手を出すことはありませんでした。

リストには原価が載っています。お客さんの目に触れては困るので、売り場を離れるときは引き出しにしまいました。工夫といえば、それくらいのもの。雑誌をめくりながらリストと見比べるのも、私には楽しいひとときでした。

注文は、基本的に電話でした。ところが電話はレジ横にあるので、すぐそばにお客さんがいます。お金の話や数字の話を、人前で大きな声でするわけにもいきません。そこで金額は、たとえば1280円なら「いち、に、はち、まる」と、ひと桁ずつ区切って読みました。

コリドラス・パンダを小さなサイズで大量に仕入れたいときも、お客さんがいるレジ横で受話器を取り、こう頼んだのです。

「1000匹買うから、安くして」

電話の向こうで、業者は笑いました。

「ええよ」

そして、こう続けたのです。

「いつも楽しい注文してくれるから、嬉しいわ」

買い付けに行くと、ヘビを買ってしまう

大口の注文のときは行ける場所なら直接買い付けにも出かけました。行き先は、日本でも一番大きいと言っていい有名な卸業者です。建物は扱う生体ごとに分かれ、淡水魚、熱帯魚、海水魚、小動物、爬虫類と両生類、鳥と、ありとあらゆる生き物がそろっていて、爬虫類の建物に入るとワンフロアのすべてが爬虫類でした。

そこは、お客さんに見せる場所ではありません。売るより預かるのが仕事なので展示という発想がなく、すべてが、体調の管理と出荷の管理をいかに効率よくこなすかのために作られていました。私の店の売り場とは、同じ生き物を扱っていても、まるで別の世界です。

それでもお客さんがペットショップへ行くのと同じ感覚で自分の目で選べるのですから、テンションは爆上がりでした。仕事で来ていることも忘れて、ただ普通に楽しんでいたのです。

ただし、行けば行ったで「せっかく来たのだから」と、余計な物まで買ってしまいます。売れ残りの「あるある」はたいていここから生まれるのですが、私の場合はヘビでした。

ヘビは、同じ種類でも1匹ずつ顔も柄も違います。業者のところには大量にいるので選べます。選べるから、欲しくなる。気づくと私は買っていました。

店に戻ると、ショップが仕入れられるのは、せいぜい10匹ほどです。最初のうちはポンポンと売れました。ところが残りが2〜3匹になったとたん、ぴたりと止まるのです。

なぜ売れないのか、しばらく分かりませんでした。やがて仕組みに気がつきました。たくさんいるから選べて、選べるから欲しくなる。選べなくなれば、欲しくもならない。それからは、売り切る前に次を仕入れて、常に店の水槽を回すようにしました。

発注は、自分の水槽に魚を買う感覚

極論を言えば私にとって発注は自宅の水槽に魚を買うのと同じ感覚で、仕事というより買い物の楽しさに近かったのでしょう。しかも、言い方は悪いのですが、払うのは自分のお金ではありません。会社のお金で好きなものが買えるのですから、楽しくないはずがないのです。

パンダは、他の店より大量に、小さいサイズをわざわざ選んで仕入れ、安く出しました。1匹380円で、10匹まとめて買えば2980円。結果として1万匹どころではない数が売れています。そのときの話は、「コリドラスが死ぬ本当の原因は、水質じゃない」に書いています。

新しい魚や水草が入荷する日は、いつもわくわくしました。何より楽しかったのは自分が狙って仕入れた魚が売れた瞬間で、自宅の水槽に入れるつもりで選んだ魚が、お客さんの水槽へ旅立っていく。どの魚が嬉しかったのかと聞かれても、答えは「全部」としか言えません。