熱帯魚がお店に届くまで。卸の仕事で知った輸送のこと
空港から、セレナで帰ってくる
これは20年以上前、私が卸の仕事をしていたころの話です。卸の魚は、いつも社長が空港まで取りに行っていました。週に2回ほどで、そのあいだ私たちはハウスで待っています。
社長が乗っていくのは、いつもセレナでした。帰ってきた車の後部座席は、発泡スチロールの箱でパンパンです。空港で荷を受け取るときに社長はある程度魚の状態を見てきますが、箱を開けるのはハウスに戻ってからでした。
荷卸しは、たいてい私が一番にやりました。私以外は女性のアルバイトさんだったからです。蓋を開けると、箱の中から独特の匂いがします。臭いのではありません。かといって嫌な匂いでもなく、「東南アジアだ」としか言いようのない匂いでした。
袋は、決して小さくありません。ただ、袋の大きさに対して、魚が多いのです。そしてもうひとつ、袋の中には、空気がほとんど入っていません。
ハウスは、園芸卸の居抜きだった
ハウスは、もともと園芸卸の居抜きで、とにかく大きな建物でした。大きすぎて半分に区切って断熱していたほどですが、それでも水槽を置いているスペースだけで教室4個分以上の広さがあり、よく考えると水槽は200本ほどありました。
冬は、びっくりするほど底冷えがします。そのため冬の下段の水槽はあまり使わず、反対に夏場は、高温に弱い種類を下段に入れていました。いまのわが家の水槽が45cmの3本だけなのを思うと、桁違いの広さです。
ショップの袋と、空輸の袋
ショップで魚を買うと、酸素を入れてパンパンに膨らませ、輪ゴムで止めて、水漏れしないよう固く縛った袋を渡されます。ところが輸入の魚は空輸で運ばれてくるので、袋をパンパンにしてしまうと上空で破裂するのです。
だから空気は思っているよりずっと少なく、袋はだら〜っとしています。しぼんだ風船とまでは言いませんが、そんな感じです。その中に魚がぎゅうぎゅうに入って、3日ほどかけて運ばれてきます。
荷が着くと、社長が早足で歩きだす
車から降りた社長はそのあとすぐ書類の作成に入るので、荷はしばらく放置されます。ただし、どの魚をどの水槽に入れるかを決めるのは、社長の仕事です。
降りた社長の後ろに、女性のアルバイトさんがぴったりついて歩きました。社長は速足で早口で、水槽を指しながらこう言っていきます。
「これはネオンテトラ」
「これはプレコ」
「これはシルバーアロワナ」
アルバイトさんは、その早口に必死で食らいついていました。
先に結論
- 熱帯魚は、袋に魚がぎゅうぎゅうで、空気の少ない状態で、3日ほどかけて運ばれてくることがあります。
- 卸の仕事では、お店へ送る前に、魚の薬を抜く作業をしていました。
- 入荷したての魚が弱っているのは、この長い輸送のせいでもあります。
送る前に、まず薬を抜く
私が卸をしていたころは、輸送中の魚に薬が使われていることがありました。そのままお店に送ると届いた先で魚が死んでしまうことがあるので、卸ではまず薬を抜く作業をしてから出荷していました。たとえばベタは、漢方薬が入っているくらいの袋で届きます。
こうした作業を経て、ようやく魚はお店の水槽に並びます。
入荷したての魚に、無理をさせない
長い輸送を終えた魚は、お店の水槽に入ったあとも、しばらくは疲れています。私が「入荷したての魚をそのまま自分の水槽に入れると、負担がかなり大きい」と言うのは、この輸送の大変さを知っているからで、魚を選ぶなら、入荷から少し日がたってお店の水槽で落ち着いたものが安心です。
袋のまま、買って帰った日
実は、ショップの店員だったころから、私の店は、この卸に買い付けに行っていました。タイミングが合えば、ちょうど入荷の日に当たることもあり、そんなときは入荷の作業を手伝ったこともあります。
水槽に一度入れるより、袋のまま全部買って帰ることもありました。そんな日は、さすがに店で水合わせをしてから、「入荷直後」の張り紙を出して、その魚の販売を止めておきました。