いきもの深夜便
ミッキーマウスプラティは、殖えすぎない。何もしなければ、自然に数が落ち着く
熱帯魚

ミッキーマウスプラティは、殖えすぎない。何もしなければ、自然に数が落ち着く

書いた人: 管理人(熱帯魚歴30年・元ショップ店員・元卸売業者)

「オスとメスを、1匹ずつください」

そう切り出すお客さんは、たいてい、ほんの少しだけ胸を張っています。これから命を殖やそうという人は、誰でも、どこか誇らしげになるものです。

つがいで欲しいという注文は、ミッキーマウスプラティに限らず、どんな魚種でも、毎日のようにありました。厄介なのは、魚によっては、雌雄の区別が、ほとんどつかないことです。見分けやすいはずのプラティでさえ、サイズが小さいうちは、水槽の前で首をひねることになります。それでも、せっかくの期待を裏切りたくなくて、私は、目を凝らして1匹ずつ見比べ、できる限りの組み合わせを選んでいました。

つがいを袋に入れて渡すと、お客さんは、決まって同じことを尋ねてきます。

「これで、どんどん殖えますかね?」

「殖えますよ。ただ、水槽の中で殖えすぎて困ることは、案外、少ないんです」

そう答えるたびに、相手の顔には、期待と戸惑いが、半分ずつ浮かびました。

先に結論

  • ミッキーマウスプラティは、子どもを産んで殖える魚ですが、水槽の中で、殖えすぎて困るほどには、なりません。
  • 何も対処をしなければ、稚魚は自然に淘汰されて、数が落ち着いていきます。
  • 産卵箱や隔離ケースで稚魚を守れば、話は別で、数は、あっという間に膨らみます。

指先ほどの、小さな魚

プラティの故郷は、メキシコ南部のベラクルスから、中米のベリーズ北部にかけての、川や池です。魚類のデータベース「FishBase」によると、体の大きさは、オスで最大でも4cmほど、メスでも6cmほどにしかなりません。弱アルカリ性の水を好む、おだやかな魚です。

ミッキーマウスという愛称は、尾の付け根にある黒い模様が、あの有名なネズミの顔に似ているところから、つけられたといわれています。体の色は、赤や黄色や青と、驚くほど多彩で、丈夫で、餌にもよく食いつきます。熱帯魚の世界の入口に立っている魚と言っても、いいかもしれません。

卵を産まずに、子どもを産む

プラティが、とりわけ人の目を引くのは、卵を産みっぱなしにするのではなく、母親の体の中で卵をかえし、稚魚の姿で産むからです。この繁殖のしかたを、「卵胎生」といいます。FishBaseによれば、妊娠している期間は24〜30日、一度に生まれる稚魚は、20〜80匹です。計算のうえでは、ひと月ごとに、水槽が稚魚で埋まっても、おかしくありません。

ところが、水槽は算数どおりにいかない

実際の水槽は、そんな計算どおりには、動いてくれません。私の水槽では、殖えすぎて困ったことが、一度もありません。特別な手当ては何もしていないのに、生まれた稚魚は、いつの間にか数を減らして、水槽の頭数は、ほどよいところで落ち着きます。生まれた者の全員が、大人になれるわけではない。水槽の中でも、静かな淘汰が、いつも働いているのです。

人が手を貸すと、話は変わる

その均衡が崩れるのは、人が手を貸したときです。産卵箱や隔離ケースに、産む前の親を移して、生まれた稚魚を守ってやれば、稚魚は、ほとんど減らずに育ちます。そうなれば、数は、あっという間に膨らんでいきます。

つまり、プラティが増えるかどうかを決めるのは、魚の繁殖力ではなく、人が稚魚を守るかどうかです。殖やしたいのか、自然に任せたいのか。飼いはじめる前に、先に決めておくのが、いちばんだと思います。

ある日、水槽に小さな稚魚がいた

稚魚を見つけた日のことは、店でも家でも、何度か覚えています。店では、売り場の水槽の隅に、いつの間にか、針のように細い稚魚が泳いでいたことがありました。家では、いまの水槽で、最初に気づいたのは妻です。

「ちっちゃいのが、おる!」

その声に、娘が駆けつけて、二人は、水槽にかじりつくようにして、騒ぎはじめました。騒ぎといっても、困ったほうではなく、楽しいほうの騒ぎです。いつもは静かな水槽が、その日だけは、家族の話題の中心になりました。

特別なことは、何ひとつ、していません。ミッキーマウスプラティの水槽に、コリドラスもいっしょに入れて、ふつうに餌をあげ、ふつうに水換えをしているだけです。それでも、ほどよい数に落ち着いてくれます。何かを足さなくても、引かなくても、水槽は、自分で釣り合いを取ろうとします。その働きを、毎朝、横で眺めているのが、私は好きです。

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