金魚から熱帯魚に戻ったらラクだった。ヒーター問題より、金魚のほうが難しい
金魚用の水草を買いに来る人
店には、決まって平日の夕方に来るお客さんがいました。初老の男性で、服装はいつもきれいで、物静かで、どこか品のある人でした。多くは語らない人なので、最初は、奥様かお子さんに頼まれたおつかいだろうと思っていましたが、いま思えば、仕事帰りに寄っていたのでしょう。
その人が買っていくのは、いつも、金魚用の水草でした。
「これ、ください」
「いつもありがとうございます。金魚の水槽ですか?」
「ええ。入れても入れても、すぐになくなってしまうんですよ。水草は消耗品なんですね」
そう言って、少し恥ずかしそうに笑いました。こちらが聞くまで、水槽のことは、何も話さなかった人です。
それを聞いて、私は理由が分かりました。金魚は、水草を食べるのです。この人は、毎週のように、金魚のおやつを買いに来ていたことになります。
「お客さん、それ、金魚が食べてるんだと思います」
男性は目を丸くして、それから、ああ、と小さく声を出しました。
「食べてましたか。あれは、育たないものだと思っていました」
それからは、餌を替えてもらい、水草も、金魚に食べられにくいアヌビアスを勧めました。葉が硬くて、金魚が食べにくいからです。次の週に来たとき、あの人は、前より少し嬉しそうに見えました。
先に結論
- 「ヒーターがいらないから金魚」という選び方は、手間を減らしているようで、実は、難しさを増やしています。
- 品種改良された金魚は、水質にも病気にも敏感で、水替えを怠った分だけ、水槽の状態にそのまま表れます。
- ヒーターは、一度設定すれば自動で働くので、日々の世話の中では、ほとんど存在を意識しなくなります。
金魚は水草を食べるので、水槽の水を守れない
熱帯魚の水槽では、水草が養分を吸って水を保ってくれるので、飼い主は、ずいぶん助けられます。ところが、金魚の水槽には、その助けがありません。アヌビアスのように、葉の硬いものなら残りますが、ほとんどの水草は、食べられて終わります。水の汚れは、水替えと、ろ過だけで受け止めることになるのです。
コロナ禍、90cm水槽にらんちゅうを入れた
それを、私は、身をもって実感することになりました。コロナ禍に、水槽をもう一度始めたときのことです。ヒーターがいらない金魚のほうが楽だろうと考えて、90cmの水槽に、らんちゅうなどを何種類か入れました。
ところが、楽ではありませんでした。水質には気を使うし、病気にもなりやすく、水替えをさぼれば、水はすぐに汚れます。品種によっては、水深のある水槽が合わないこともあり、手をかけても、なかなか安定しません。やがて、外部フィルターが壊れたのを機に、金魚を手放して、熱帯魚に戻しました。
ヒーターは、思ったほど重くなかった
熱帯魚に戻してから、ヒーターの電気代や手間が気になったことは、ほとんどありません。水温を設定すれば、あとは、勝手に保ってくれます。
かつて熱帯魚をやめた人の多くは、再開するときに、ヒーターを避けて、金魚やメダカへ行きました。コロナ禍に、熱帯魚が復活しかけたときも、流れた先は、メダカでした。電気代と手間への不安は、実際の負担よりも、ずっと大きく見えるのだと思います。
いま、私の45cm水槽では、アヌビアスとニムファが、誰にも食べられずに、葉を広げています。あの男性の水槽にも、アヌビアスが残っていたらいいなと、ときどき思います。